大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(ネ)755号 判決

控訴代理人は主文同旨の判決を求め被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者陳述の事実は控訴人において次の点を附加した外原判決に記載せられたところと同一であるからこれを引用する。

(一)  訴外大森正之助は自作農創設特別措置法(以下措置法と略称する。)に基き買収せられた左記の農地を同法第十六条の規定に依り売渡を受け耕作している。

所在

地番

地目

面積

売渡日

江戸川区松本町

一、五七二

反 三〇八

一〇〇

昭和二十二年十二月二日

〃鹿骨町

七三一

四一三

昭和二十三年十月二日

〃〃

七三二

五一四

〃〃

七二六

四〇六

昭和二十六年四月十日

〃小岩町一丁目

九七七

三一八

昭和二十三年十月二日

〃〃

九八二

四二四

〃〃

一〇、一五二

六一三

〃〃

九九〇

六二五

〃〃

一、〇三七

五一七

尚大森は左記の小作地をも耕作している。

所在

地番

地目

面積

摘要

江戸川区鹿骨町

四一二

反 二〇〇

山崎鷹蔵より小作

〃松本町

一、五七六

四一〇

川野喜之助より小作

〃小岩町一丁目

九〇三

三〇八

一〇〇

川野弥三郎より小作

(二)  本件で問題になつている宅地六十五坪は右大森家の先祖代々所有承継して来た土地で、大森正之助の祖父の時代に一時他人の手に渡つたが、父清吉がこれを買戻した後昭和六年一月十九日更にこれを被控訴人に売渡したが同時にこれを賃借した。清吉が死亡した後は、正之助が家督相続し右の借地権を承継したものでその地上には先祖伝来の住宅を所有しこれに居住して専ら農業を営んでいる。

(三)  本件買収当時右宅地上の建物は木造萱葺平家建一棟建坪十二坪及附属物置三坪であつて、この建物及敷地たる本件宅地を次のように農業経営上欠くべからざる用途に使用している。即ち、

(イ)  その居宅において農耕の準備をなし農器具、農薬、肥料、農作物運搬用具、収獲物等の置場に使用する外米倉を備え、天井は温床用の莚藁等の置場に使用し、家屋の周囲には収獲物、日除、風除用の簾、丸太、温床用の障子等を置き且つこれ等に必要な設備をなし、

(ロ)  物置には収獲物、農器具、農作物、肥料等の運搬用具を置きその為め必要な設備をなし、

(ハ)  庭は野菜出荷の際の荷作り、米穀の整調等の農耕作業及び附随作業に使用する外農耕材料置場、苗床、畜舍、堆肥置場、農作物乾場等に使用し、且つそのために必要な設備をしている。

(四)  本件宅地は大森正之助の耕作する農地のほぼ中心点に当り農地はこの宅地より大体二、三町の距離、最も遠いものも五町程度の距離にある。この宅地に居住しこれ等の農地を耕作することに何の支障もない。この附近で他に宅地を賃借することは至難であるから大森家ではこの宅地を離れて農業を経営することは不可能である。

と述べた。(立証省略)

三、理  由

本訴において控訴人が当事者適格を有すると解する点については原判決の理由記載を引用する。それは単に行政事件訴訟特例法第三条の規定を本件行政処分無効確認事件に準用するのを相当とする意味である。行政処分の無効確認の訴を提起する者はこれを争う処分行政庁を被告として可なりと言うに過ぎず、被告を処分行政庁に限定するものでない。即ち訴訟法一般の理論により被告たるべき者を定めることを許さないと判断したものではない。

よつて進んで本案について考えるに、

控訴人が訴外大森正之助の買収申請に応じて被控訴人が右大森に賃貸していた被控訴人所有の東京都江戸川区鹿骨町四百十一番地宅地六十五坪について措置法第十五条第一項に基き昭和二十四年六月二十日宅地買収計画を定め同日公告した事実は当事者間に争がない。又大森正之助が措置法の施行により国から農地の売渡を受けて自作農となつたものであることは争なくその売渡を受けた農地が控訴人主張の如くである事実についても被控訴人の明に争わないところである。

本件の争点は右宅地が措置法第十五条第一項の買収の対象となるか否かの点にある。先づ本件宅地の状況を検することとする。原審及当審における検証の結果、原審及当審証人大森正之助の証言当審証人山崎覚次郎、原審証人皆川芳勝の各証言、成立に争のない乙第十号証の三を綜合するに、(一)本件宅地は南北に稍長いほゞ長方形の土地で地上に二十坪位の木造平家建物があり大森正之助一家の住居となつていて先祖代々こゝに住み農業を営んでいる。その建物の土間及物置には農耕用の各種機材を置き天井裏は藁置場に使用せられ、又建物に続く東側の物置には各種の農器具が納められている。建物の周囲の空地は耕作に用うる竹材、ヨシズ等の置場となり、建物後方の空地には苗床を設けてある外堆肥置場、藁置場等に用いられつゝある。大森正之助はこの宅地の東側に隣接する鹿骨町四百十二番地の土地の内二畝を所有者山崎覚次郎より借受けこれを本件宅地の空地とを一括して収獲物の乾燥、出荷物の荷造りの場所等に使用しつゝある。(二)本件宅地はもと大森の先祖代々所有承継し来つたものであつたが、正之助の先代の時代に被控訴人に担保に入れ遂に被控訴人の所有となつたが引続き大森家で使用することを許されて来たものである。(三)大森正之助が農地改革によつて売渡を受けた前示の農地は本件宅地から二町乃至五町の距離に数ケ所に分布していて、大森家では家族五人がこれ等の農地に通つて耕作に従事しているが、この附近の農家では耕地が住宅から離れているものが普通の状態で大森一家でもその為めに別段不便を感ぜず、農耕用具及運搬用具は本件宅地内に置き又収獲物はこの宅地に運んで処理しつゝある。(四)大森家では本件宅地及その地内の建物と設備を利用して農業を経営する外に適当な場所を持たない事実を認めることができる。

以上の事実からして大森正之助一家は本件宅地を農地の経営の中心地として使用していることが明らかで、この宅地がなければ農業の経営に支障をきたす関係にあることが認められる。

さて措置法第十五条の規定は同法第一条に定める農地改革の目的を完遂し、自作農を創設してその地位を安定せしめるためには、単に農地を取得せしめるのみでは足らず、これを経営するために必要な物件及び権利をも取得せしめることが適当であるとの考慮の下に、制定せられたものと解せられる。この趣旨よりして自作農となつた者が売渡を受けた農地での農業経営のため必要な住宅其の他の建物につき、若しその建物の敷地が他人よりの借用のものならばその敷地を、又若しその建物が他人より賃借中のものならば、その建物を国家が買収して自作農に売渡し以て自作農となつた者のために居住又は農業経営用の建物の確保を図つたものと解せられる。されば同条第一項第二号に所謂宅地とは住宅その他の建物の敷地を謂うものと解釈しなければならない。もとより同条立法の趣旨より見て買収せられる宅地が自作農において売渡を受けた農地の経営に必要な場合に限らるべきものであるが(最高裁判所昭和二十四年(オ)第三二二号、昭和二十六年十二月二十八日判決)被控訴人主張のようにその空地は売渡農地に地理的に附属する関係にあるとか又はその宅地が、売渡農地の利用に供せられる従属関係にあることを要すると解すべき根拠はない。

これを本件について見れば前示のように本件宅地は大森正之助の住宅及物置の敷地となつていてこれ等の建物には農耕用の各種資材をも納め建物の周囲の空地は、或は苗床を作り、或は農地からの収獲物の乾燥、荷造等の作業を行うに使用せられていて要するに同人が売渡を受けた農地の経営に必要な用途に使用せられているものと認められるから、前記措置法第十五条第一項の規定により買収の対象たり得る宅地であると判断せられる。然らば本件宅地を買収の対象として樹立した買収計画は違法ではないからこれを無効とする被控訴人の本訴請求は理由がない。よつて民事訴訟法第三百八十六条により原判決を取消し、被控訴人の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき同法第九十五条、第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 小堀保 角村克己 原増司)

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